特集

「思考と表現」で「探究女子」を育てるトキワ松学園

図書室の授業への活用は多くの学校でも行われていますが、トキワ松学園の図書室では、伝統の図書教育に加え、中1では2017年度から、高1では2018 年度から、司書教諭による授業「思考と表現」が行われています。教科が行う授業はもちろん、トキワ松学園独自の「思考と表現」は、「探究女子」をどう育てているのでしょうか。 中学教頭の松本理子先生、司書教諭・「思考と表現」担当の勝見浩代先生、小澤慶子先生にお話を伺いました。 (見学・取材 / 2019年1月18日・1月23日) □□■トキワ松学園の図書教育■□□ トキワ松学園の生徒は、入学後、図書室でまず「目次・索引・奥付」といった「本」の基本的な知識から、図書室での調べ学習の基礎となる「請求番号」について学びます。 「2017年度学校読書調査」(全国学校図書館協議会・毎日新聞社)によれば、中学生の15.0%、高校生の50.4%が不読者という結果も出ていますが、トキワ松学園では、中1〜高2は不読者ゼロを誇り、一人当たりの図書貸出平均冊数は中学1年40.26冊、高2でも15.91冊ということからも、生徒はよく図書室を利用し、本もよく読んでいることが伺えます。 図書委員会の活動も活発で、図書室の机の上に「おすすめ本の紹介」を置いたり、新聞を発行したり、司書教諭とともに活動しています。お薦め本を紹介するディスプレイも、図書委員による工夫。決して広いとはいえませんが、中1の教室から最も近く、教科のリクエストに応えることもあり、常に生徒に寄り添った「居場所」と言える趣です。 □□■「思考と表現」の導入まで■□□ トキワ松学園が「思考と表現」を導入するに至るまで、時間をかけて様々な検討が行われてきました。 松本先生は、「まず始めに、言葉、表現、調べる、こういう力を付けたいという思いがあり、どうしたら探究というキーワードと結びつく教育ができるだろうかということから始まりました」と振り返ります。 教育改革や生徒を取り巻く環境の変化が進むなか、2013年前後に、トキワ松学園の生徒のために何を目指していくかを話し合ったブレインストーミングから「探究女子」という方向性が出ました。折しも、2014年1月に言語技術教育研究所の三森さんの講演が私学財団主催で行われ参加。2015年には国語、英語の教員たちで言語技術のワークショップや講座を受ける機会があり、それを通して、基本的な言語技術を身につけることは生徒にとって大切だという認識を改めて共有するに至ったことは、のちの議論に大きな役割を果たしたと言えるかもしれません。 30年以上積み重ねてきた図書教育で、読んだり書いたり調べたりすることが日常に自然に行われていたトキワ松学園としては、国語教育を言語技術に特化するのではなく、思考力に重点をおく教育を作っていくことを選択。国語科、英語科を中心とした教員8名という構成でプロジェクトを立ち上げたのでした。 そこでは、思考力を育む教育とは何か、そして具体的にどのように運用するか(教科や陣容など)は、他校の実践例もたくさん見学しながら、かなり時間を割いて議論したと言います。そして、議論を重ねに重ね、30年来の図書教育の土壌を持つ図書室での実施という結論に至ったのです。 「実は、受け入れるに当たって葛藤はありました」と吐露するのは勝見先生。 □□■2017年に総合学習として「思考と表現」を導入■□□ トキワ松学園の図書室は、勝見先生と小澤先生お二人に任されています。それぞれ国語と社会の教員資格を持つ司書教諭ですが、「思考と表現」を担当するなら2人でのチームティーチングにしたいと申し出たそうです。 「図書室のスタンスとしては、日常の図書室業務も大切だと思っています。それでも『思考と表現』という授業の担当を引き受けたのは、“探究力”は、今の生徒たちにとっても必要な力で、自分たちもトキワ松学園にいるからには『探究女子』を育てることに寄与しなければならないだろうと思っていたからです。図書教育で、ある程度のノウハウはありましたし、それを体系的に教えてみたいという思いも少なからず持っていました。背中を押してくださる先生もいらっしゃいましたが、二人で何度も話し合い、悩み、迷いました。でも、私たちも生産的に授業できる、面白いことができるんだ、どうせやるなら面白くしよう、トキワ松学園らしくやろうという方向に舵を切ってからは、ひたすら頑張りました」と語る勝見先生の横で、小澤先生も深くうなずきます。 □□■教科書のない教科「思考と表現」■□□ 初年度、中1の総合の枠内で「思考と表現」が実施され、2年目の2018年度から高校1年生では学校設定教科となりました。そこに至るまでには、教科書のない教科で、生徒評価をつける「授業」に足る内容を提供できるのかに議論が集中。「思考と表現」への校内理解を得るために、勝見・小澤両先生は、試行していたルーブリック評価のポイント例をあげながら、時間をかけて学内のコンセンサスを作り上げていったのです。その間、先生方を支えたのは、支援してくれた松本教頭はじめプロジェクトのメンバーの後押しと、「これは、生徒にとって必要なことだ」という思いでした。「始めてみたら案ずるより産むが易し。今の生徒の成長が、何よりも大きな説得力を持ってくれました」と、今は笑って話せるお二人です。 2学期最後の、会議席上でのこと。 「生徒が自分の思いを、言葉を尽くして人にわかるように表現するようになってきたと実感している」との発言が高1学年主任からあり、書くこと、書く内容、集中力などに著しい成長が見えるのは「思考と表現」の成果であると、図書室への感謝があったそうです。例えば、トキワ松学園では行事ごとにコメントを書いて提出していますが、「思考と表現」を授業として受けている現高1生は、その質と量が豊かになってきたことに成長を実感したと聞き、驚くとともに嬉しかったと、顔がほころびます。 彼女たちは、eポートフォリオが大学受験時に必要になってくる学年ですが、トキワ松学園ではプラットフォームを導入し、「思考と表現」での取り組みを始め、活動履歴を書き留めることに抵抗なく取り組めているようです。

体験型イベントにも、授業と同じ熱量で臨みます

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 入試や授業の体験型イベントが目白押しの秋。10月には、多摩地区の私学15校による「たまサイエンス2018」、11月には、神奈川私学 10 校が参加した「まなびの会 コンパス2018」、首都圏私学21校が参加した「私学体験フォーラム in Tokyo 2018」と立て続けに、授業体験イベントが開催されました。学校の枠を超えて、現場の先生が協力して作るイベントです。 こうした、私学の先生方による授業を体験できる小学生対象のイベントに、当の先生方は、どのような気持ちで臨んでいるのでしょうか。 「たまサイエンス2018」に「偏光板で遊ぼう!」、「まなびの会 コンパス 2018」では「電気ブランコを作ってみよう!」を担当した桐光学園理科教諭の安達員博先生にお聞きしました。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ------安達先生は、いつから理科の先生をめざしたのですか。 高校生のときには、工学部に進んだらエンジニアに、物理を学ぶことになったら教師になりたいと思っていました。高校時代に楽しいと思ったことのない物理を専門にしてみると、物理って、公式を覚えて計算して、という教科ではなく根本は一つ、つまりシンプルな学問なんだということが分かってきて好きになってきたんです。地味すぎてわかってもらえない教科ですね。 教育実習に行った母校(私学)で受け持ったクラスは、とても雰囲気も良く、生徒と充実した時を過ごせました。ある生徒に、「先生に一言、声をかけてもらったから、遅刻しないように学校に行こうと思った」と言われたときに、何気なくかけた言葉だったので、教師という仕事の重さに触れた一方、やりがいも感じ、教師になりたいという思いが強くなりました。 ------中高生とは知識も力も異なる小学生に授業をするときに、どのようなことを心がけていますか。 もちろん桐光学園でやっている授業そのものができるわけではありませんが、この一時間をおもしろいと思ってもらいたいというのが一番です。取り上げるテーマ決めから、授業計画、材料準備など当日までにやるべきことは、普段と同じくらいの熱量を注ぎます。そんなに器用ではないですから、イベント用に雰囲気やスタイルを変えるというようなことはできません。そういう意味では、授業体験イベントは、まさに私学体験と思ってもらえるのではないかと思います。僕は、一方的に話して教え込むような授業は苦手で、聞いて、返して、 確認して、という生徒とキャッチボールしながらの授業を心がけています。イベントでも、その雰囲気を感じてもらえるのではないでしょうか。 イベントでは、使った(作った)ものを持って帰って家でもう一度やってみたり、調べたりできるような内容にしています。楽しかったイベントが、その子の好奇心につながってくれたらいいなと思っています。今日(学びの会コンパス)は、ちょっと工作に時間がかかってしまったのは反省点です。たまサイエンスでは偏光板を使った実験をしました。地味過ぎたかなと思っていましたが、小学生が地道に作業をやりきったことに感動して喜んでくれたのは、とてもうれしかったですね。なぜそうなるのかを説明したときの反応も純粋で、瞳がキラキラしています。そんな姿に出会えるので、イベント準備の忙しさに心が折れそうになっても、やりがいを感じます。 ------理系に進みたい生徒には、どのようなアドバイスをしていますか。 先ほど話した小学生の反応と同じですが、普段の授業でも、地味な作業のあとに理論的に法則を解説すると、生徒は感動してくれます。小学校で学んだことを高校で証明できるようになるのも、喜びにつながっているようです。 進路を考えるときには、何になりたいかで選択科目が変わってきますので、まずそこから。 授業のときの発問に楽しい、鋭い反応を返す生徒からは、物理が好きなんだろうという気持ちを感じます。好きなのにテストで点数が取れない子は、努力不足だと思うので、そこのところはきちんと指導します。物理が苦手だとか嫌いだと感じている生徒には、理論も噛み砕いて教えて、そう思うようになった先入観やきっかけを取り除いてあげるようにします。どちらの生徒にも、物理の面白さを伝えたいと思っています。

市川学園の国際教育

市川中学校・高等学校には、「第三教育」という建学の精神があります。 「親から受ける第一教育」「教師から受ける第二教育」、そして「自ら進んで学ぶ第三教育」。今回、及川秀二副校長にお聞きした「国際教育」にも、意欲的・主体的に学ぶ「第三教育」の精神が息づいていました。 (取材日:2018年10月11日) □□■充実の国際研修プログラム■□□ 市川学園の国際教育プログラムを担う及川先生は、普通ではできない体験を用意していると語ります。 ——— 現在の「国際研修」プログラムは、以前は「語学研修」と言っていました。語学を身につけることを目的にするとしたら、2週間は短い。せっかく海外に行くのであれば、語学習得だけを目的にするのではなく、語学は学校できっちり勉強して、それ(語学)をどうやって生かすかの研修にすべきだと考えたからです。  オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ダートマス大学などで行う2週間のプログラムは、一つのテーマについて、ディスカッションし、プレゼンテーションします。例えば、ボストン・ダートマス研修のテーマは「リーダーシップとは何か」。アメリカの専門家の監修による市川学園オリジナルプログラムです。イギリスのオックスフォード大学やケンブリッジ大学の研修は、先方の大学の先生や学生と行うアクティブ研修です。二週間ずっと、午前中ディスカッション、午後エクスカーション(小旅行)で過ごします。ドミトリー(寮)泊なので、ナイトセッションの、リフレクション(振り返り)と宿題まで、終日、頭も心もフル回転する毎日です。イートン研修はイートン校が提供し運営するプログラムで、首都圏では学習院女子、巣鴨、桐光学園などが参加していますが、現地では男女別に学びます。  ケンブリッジ大学ではピーターハウス・カレッジに宿泊していましたが、このカレッジができた頃、日本は鎌倉時代。生徒は、初めは古さに戸惑うようですが、かけがえのない経験をしたと感じて帰ってきます。さらにケンブリッジでは、ノーベル賞受賞者も多数輩出しているイギリスの物理学研究所、キャベンディッシュ研究所訪問という貴重な体験が待っています。  カナダ、ニュージーランドでの研修も、ディスカッション中心の内容で、現地学校の授業にも参加します。イギリス、アメリカと大きく違うのは、ホームステイであるという点。一家庭一生徒の環境なので、学校でも英語、放課後も英語の毎日、そしてホストファミリーとの交流が魅力です。  海外研修は、ディスカッションはもちろん、エクスカーションでの文化体験、フィールドワーク、自然観察などを組み込み、ただのアクティビティに終わらせません。生涯の記憶に残る貴重な経験なので最高のパフォーマンスを提供したいと考えています。  また国内でも、アメリカの大学生を学園に招く「エンパワーメントプログラム」を実施しています。英・米の国際研修と同等の内容を、1日5時間、5日間の短期集中型で、少人数で学びます。来校した学生が生徒の家にホームステイすることで、交流も生まれています。  □□■アカデミック・ライティングを重視■□□ 【市川学園の国際研修プログラム(2018年度)】 ・英国 イートンカレッジ(ドミトリー泊) 3〜5年希望者19名 ・英国 ケンブリッジ大学(ドミトリー泊) 3〜4年希望者31名 ・英国 オックスフォード大学(ドミトリー泊) 3〜4年希望者27名 ・米国 ボストン・ダートマスカレッジ(ドミトリー泊) 4〜5年希望者23名 ・カナダ バンクーバー・ナナイモ(ホームステイ) 3年希望者42名 ・ニュージーランド オタゴ・ダニーデン(ホームステイ) 3〜4年希望者39名  ・シンガポール 3年の修学旅行 ・国内 エンパワーメントプログラム 4〜5年希望者82名 これらの国際研修は、現地に行くこと、体験することだけで終わりではありません。 ——— 以前から海外研修帰国後は文集を作成しています。これも、もう一段階上のステージにあげるべく、昨年から、アカデミック・ライティグ重視にシフトしました。研修日記に止まらないよう、生徒一人ひとりがテーマを決めて、自分が何を言いたいのかを日本語でマッピングしたうえで構成を考え、キャプションを立てて英語でも書きます。丁寧に時間をかけて、添削を繰り返し仕上げています。研修に行く前には、大学の先生を招いてアカデミック・ライティグについて講義していただいています。もちろん、国際研修に行くからといって英語が堪能な生徒ばかりではありません。英語がうまくなるのが目的ではなく、意図をもって文章を書けるように指導しています。アカデミック・ライティグの指導は、いずれ学園全体の取り組みに広げていきたいと考えています。 □□■自分オリジナルの海外体験■□□ ここ数年、生徒は学校外のプログラムにも積極的に参加するようになっています。結果的に年間200名を超える生徒が海外体験に一歩踏み出していることになります。 ———— 国際研修はじめ、海外プログラムに参加している生徒は、年間でのべ220人を数えます。海外に一歩踏み出す生徒は、自分を変えたい、何かに強い関心がある、あるいは自らの将来を見据えて、この体験を踏み台に、一つ上に行きたいと考えているようです。  文部科学省の派遣プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム(以下「トビタテ!」)」には、昨年6人、今年7人が選ばれ、世界にトビタちました。 前年の10月に学内説明会を行い、そこから留学計画を練り上げます。生徒はこの過程で自らの将来、そして自分のアイデンティティについて深く掘り下げて考えていきます。  トビタった生徒は大きく変わります。  その一つは、帰国後、周囲に“伝染”させる力を発揮するようになることです。「トビタテ!」では、日本をアピールするアンバサダー活動と、エバンジェリスト活動(啓蒙活動)を参加者に求めますが、生徒は誰かに言われなくても、帰国してからの体験を誰かに伝えたい思いを抑えきれないようです。  研修から帰国すると、生徒はよく「くよくよした最初の一週間がもったいなかった」と言います。最初の一週間は、英語が伝わらないことや、アジア人への偏見などに直面して落ち込むものの、アイデンティティや、「何を伝えるか」「あなたは何者か」「日本人として、自分が将来何をしたいのか」を深く考え、コミュニケーションを取ることにも慣れて来る一週間目の後半から、ネガティブに落ち込んでいたことが陳腐に思えてくるんですね。最初の一週間の後悔、そこから立ち直ったときのワーッ!という感じを伝えたいと思うようです。  アメリカの「キャンプ・ライジング・サン」に参加した生徒は、文化祭で自分の体験を語りました。ある生徒は、自分の海外体験を伝えたいと、出身小学校の総合学習の時間をいただいて小学生に話しに行きました。小学校の校長先生から、「市川学園の生徒がこんな依頼に来たが・・」と問い合わせがあって初めて知ったくらい、生徒はどんどん行動的になっています。他学年の学年主任に交渉して、学年集会でプレゼンした生徒もいます。本当にいろいろなところに行って、自由に発信し始めている・・。  また海外経験は、生徒をとてもたくましくします。この夏、模擬国連のセミナーに参加したいと『トビタテ!』で、人生初めてのパスポートでアメリカに行った生徒は、自分で航空券を手配し、大学で学び、ホームステイをしてきました。渡航前は不安もあったようで教師もサポートしていましたが、自信をつけて帰国。文化祭でも発表し、11月の全日本高校模擬国連大会に出場します。  生徒は、海外でできた友達と、今度来たら…、今度行ったら…、とSNSでどんどん繋がっています。住んでいるところや学校、国という既存の枠や壁、カテゴライズを軽々と超えていきますね。

神奈川学園の文化祭は、まだ見ぬ世界を探すきっかけ

 文化祭は、部活動やクラスの発表、模擬店、親善試合等、実行委員が中心となって作り上げる、学校行事の中でも華やかな一大イベントの一つです。  神奈川学園中学・高等学校の2018年文化祭のテーマは「視野」と「地平線」の二つの意味を込めた「HORIZONS」。ポスターにはそのテーマ通り、まだ見ぬ世界を探すように海を見ている生徒が、入り口のパネルには大きな瞳が描かれていました。一見すると、“異色”にも思える神奈川学園の文化祭とは?  9月22日(土)・23日(日)の二日間にわたって行われた「文化祭2018」の二日目を見学しました。 □□■話し合いとフィールドワーク、調査、そして発表へ■□□  神奈川学園の「文化祭」の前身は、「展覧会」といったそうです。そんな生徒の活動の発表の場として始められた原点を大切にし、各年の実行委員や生徒会が工夫を重ねて今に至っています。  中学2年生から高校2年生までの全クラスが、7月に各クラスで取り組むテーマを決め、どのような視点で掘り下げるのか話し合いながら、夏休みも使い、調べていきます。9月に入って、結果をまとめ、プレゼンテーションの掲示物を作り、文化祭当日は言葉で伝える(発表する)、この一連の流れにこそ、多くの学びがあるようです。何で調べるか、どこで調べるか、大学研究室や企業などに協力を依頼するのも生徒自身が決めます。夏休み前の職員室には、アポイント交渉のための専用回線が引かれ生徒用の電話が並ぶそうです。部活もあるし勉強もあるし、生徒は大忙しであることは間違いありません。「集中する日を作る工夫や班の共同作業で、うまくコントロールします」と話してくれた生徒もありました。教員側もそれが生徒を成長させるという信念で、生徒を後押ししていることに、神奈川学園らしさを感じます。見学者も丁寧に見て回り、生徒の質問に耳を傾け、質問しながら双方向の楽しみ方をするので、自然と笑顔や会話が多くなります。 *高2D「#チョコミン党」 * 好きな人も苦手な人も楽しめる…あなたの知らないチョコミントの世界へお連れします!  ハイ!よろしくお願いします、ということで教室に入るとすぐ、ミント系お菓子が勢揃い。よく見ると、大きく2つのグループに分かれていて、何が違うでしょうか?といきなりのクイズです(答えは成分あり・なし)。  香料会社でリサーチしたり、テレビで話題のチョコミント大学生牛窪真太郎さんと交流したりしながら、ミントの味、香りから、関東・関西の違い、商品化のサイクル、ハーブの紹介、先生を巻き込んだミント味のテイスティングなど、ミントをきっかけに自由に発想が展開していく様が見えるようでした。 *中2B「J2Bに何かようかい?」* 妖怪とは何か? 妖怪の実態は? 私達は妖怪と人の関係を深く掘り下げました。恐怖体験!?  怖いもの見たさで恐る恐る足を踏み入れると・・・・。洋の東西を問わず、妖怪が勢ぞろいしていました。いつから妖怪は存在するのか、幽霊と妖怪はどう違うのかなど丁寧に調べた結果を導入に、漫画、キャラクター文化の端緒と位置付けた「百鬼夜行絵巻」の紹介、昭和の妖怪ブームと平成のゲームが生んだ再ブームという文化史考察、民俗学の視点からカッパや天狗、座敷わらし、鬼にも触れ、紙芝居あり、見学者に「あなたの思うカッパは?」と自由に描いてもらう参加コーナーあり、指し棒の先端はかわいい人魂型と、随所に工夫が光っていました。妖怪は恐怖心から生まれるというということから、慶応義塾大学の教授を取材し、アップルウオッチで心拍数を測ったり、交感神経と副交感神経を調べたりした班も。かたや地元のガイドをしているNPO法人に話を聞いた班もありました。「(百鬼夜行に描かれた)どの妖怪が好き?」と尋ねると、説明してくれた中2生は、こう答えてくれました。 「鬼か好きです。物でもなく、人でもなく、人の心が作り出すものだから」 *高1A「音姫」* 聞こえますか? 聞こえないんですか? だったら私たちと一緒に体験して見ませんか?♪  聞こえませんでした、予想通りとはいえ。  ある音をイヤフォンで聞かせてくれましたが、残念ながら完全無音状態。案内してくれた高校生の耳にはキーンと響くその音は、平均24歳以下の若者にしか聞こえないモスキート音。サウンドスケープやサインデザイン、防音と吸音システムなどについても調べ、青山学院や日本工学院も訪問しています。国立音楽院で調べた班のテーマは音楽療法。騒音を調べた班は、防音壁を作っている会社や横浜市役所でのインタビュー、幼稚園・保育園の実習というフィールドワークを重視た結果を考察し、まとめていました。「母が唐揚げを揚げる音が好き」のように音のイメージも紹介。このクラスは屋外で、ダンボールとペットボトルで太鼓パフォーマンスも披露!  「音」を入り口に、音がもたらす人と環境の関係、音と心理、音の科学などテーマを話し合う過程もさぞかし楽しかっただろうと思います。 *中2E「みんなの知らないCMの世界」* 中2E組で、みんなの知らないCMについて学んで、楽しく賢くCMを見ましょう!  用意されたスクリーンに流れていたのは神奈川学園のCM。思わず見入ってしまいました。いずれ説明会でも使われますか?   CM制作会社で、制作のプロセスを取材し、ターゲットを考えることや、共感してもらうことの大切さを学んだ班や、CMの歴史を起源から現代まで辿ることに経済史を重ねて見せた班。CMの役割や表現方法にも考えを及ばせるので、“賢く” CMを見る消費者になってくれそうです。学校のCMは、学園の特徴を生徒が生徒のインタビューに答える形でアピールする生徒目線パターンと、登校から下校までの一日の学校生活を見せて安心してもらう保護者目線を意識したパターン。生徒は楽しそうだし、教師もキャストで登場して学園(クラス)の暖かさも感じて、素直に「やられた!」

ミッション校という選択 ++玉川聖学院・聖セシリア女子・立教池袋の取り組みから++

**************************************************************************************************** ある新聞の書評欄で、横山広美さんが『選べなかった命』(河合香織/文藝春秋)を紹介。現在、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構教授の横山さんの専門は、現代科学論・科学コミュニケーション分野ですが、日本の物理、数学、情報分野に女子生徒が少ないことに関心をお持ちで、早くから理系女子中高生のためのイベントにも力を注いできました。「サイエンスカフェ」でお話をお聞きした、という方も少なくないかも知れません。 横山さんは、小中高とカトリック校である雙葉のご出身。雙葉に限らず、カトリック校、プロテスタント校ではミッション校だからといって信仰を強制されたり、周囲はみな信者であったりということは決してありませんが、日常生活にお祈りがあり、命、神、宇宙といったことを考える環境が自然に備わっているということができます。文系だったという横山さんも、この環境に物理学を志すきっかけがあったようです。 さて、前置きが長くなりましたが、横山さんのこと、命のことを考えているうちに、かけがえのない自分に気づける環境、他者との違いを受け入れる心を大切にするミッション校の教育についてお伝えしたくなりました。 **************************************************************************************************** ++++++++++玉川聖学院で育まれる人をつなぐ力+++++++++ ■■■車椅子利用マップを作成■■■ 玉川聖学院はプロテスタントのミッションスクールです。その教育方針は、 1. かけがえのない私の発見 2. 違っているからすばらしいという発見 3. 自分の可能性、使命の発見 生徒が行動で示した教育の成果をひとつご紹介しましょう。 玉川聖学院高等部に在籍する生徒二人が、2017年、自由が丘商店街の車椅子利用マップを作成しました。自らが車椅子利用者である二人の、学校のある自由が丘が車椅子利用者に優しい街になってほしいと願っての、この行動がきっかけとなり、今年3月、株式会社ミライロ(※1)の「ブレーメンの調査隊」(※2)イベントに同校生徒約50名が参加しました。生徒たちが自ら自由が丘の街をフィールドワークして集めた情報をバリアフリー情報共有アプリ「Bmaps」(ビーマップ)に提供し、自由が丘の情報を充実させました。 ※1:株式会社ミライロは、高齢者、障害者などの多様な人々を対象としたユニバーサルデザインに取り組んでいる企業。 ※2:「ブレーメンの調査隊」は、全国各地で株式会社ミライロ社が実施している調査イベント。情報のバリアフリーを学ぶ講義やグループワークの後で、実際に車椅子に乗って移動しながら、バリアフリー情報を収集します。 ■■■総合科・人間学■■■ また、導入後25年経つ総合学習授業「総合科・人間学」も、玉川聖学院が大切にしているキリスト教的世界観に立ち、人間とは、人生とは、自分とは、を深く考える授業です。思春期や働くこと、女性として生きること、ときにそれらは老いを見つめることや死について考えることにつながることもあります。地球共生、人間社会、サイエンス、芸術・メディア、言語コミュニケーションの5つのテーマごとに分類された実践的体験プログラムともリンクして進路を考えるきっかけともなり、ポートフォリオとして夢につながっていきます。今年度の学校パンフレットに挙げられている体験プログラムの具体例は40にも上ります(※3)。なお保護者のための人間学講座も開講されており、多くの在校生保護者が参加。昨年から受験生保護者も参加できるようになりました(要申し込み)。 ※3:体験プログラム事例 アジアの人と会う/被災地の人に仕えるボランティアキャンプ/中東の危機を描く映画の自主上映/車椅子バスケの体験学習/外務省に高校生の声を届ける/韓国の姉妹校とのホームステイ交流など ++++++++++聖セシリア女子で育まれる感性++++++++++ ■■■「幸せな人」を作るオリジナルカリキュラム■■■ 聖セシリア女子はカトリック校ですが、女子修道会を母体とする学校ではありません。創立者の、カトリック精神を基盤とした女子教育を実践したいという信念のもとに創られた学校であり、校訓「信じ 希望し 愛深く」は新約聖書から採られました。 この建学の精神のもと、「幸せな人をつくる」ことを目指した教育が行われています。聖セシリア女子の考える「幸せな人」とは、「自ら人生を切り開くことのできる知性とそれを生かせる心をもって社会に貢献できる人」のこと。 6年の間に、「幸せな人」として生きていくための3つの学力(読解力・論理力・表現力)を育むカリキュラムの特徴に、学校が独自に設定できるオリジナルの「学校設定科目」が多いことが挙げられます。その一つ、イングリッシュエクスプレス(中2)は、歌、台詞は英語、踊りも学び、年二回ミュージカルを上演するというもの。英語芸術学校マーブルズの協力の下、生徒たちは英語とともに、自分を表現すること、仲間と協力することを学んでいきます。高校では、実践力育成のため「スピードリーディング」「リスニング」などを設置しています。さらに高3ではクロスカリキュラムとして、教養講座を実施。現在、「外国事情」「平和学習」「食生活」「環境科学」「自然科学史」「宗教」「女性史」「アンサンブル」「詩を読む」の9講座が開講されていますが、まさに異分野の学問をクロスする学際的な学びの場となっています。 ■■■自己理解と他者理解■■■ 確かな学力を育てると共に、心の教育が併行して行われます。 聖セシリア女子では、自分自身を知ること、他者を理解すること、お互いの違いを理解し個性を尊重しあう関係を築くことができるよう、構成的エンカウンターを導入しています。エンカウンターとは、ゲーム的なグループワークをとおして自分を素直に表現し、お互いを認め合う体験のこと。エンカウンターはキャリアプログラムの導入期に行われ、自分の行き方を考えるステップともなります。将来の夢、自分の適性、自己実現のためのキャリアプログラムにおいても、カトリック精神は大きな柱です。行事や部活動、福祉教育・・・、場面はさまざまでも、いつでも立ち返ることのできる精神に基づく、「自分の存在価値を見出し、社会に貢献する」価値観が貫かれていることは、ミッション校だからこそといえるでしょう。 写真左:玉川聖学院の取り組み 写真右:聖セシリア女学園の取り組み

校長対談:香蘭女学校鈴木弘先生・山脇学園山﨑元男先生【後編】

【後編】天真爛漫でいられる、女子校という環境 香蘭女学校鈴木弘校長先生と山脇学園山﨑元男校長先生の対談の後編です。組織論から女子校の意義について、視点も広がりながら話は尽きません。 鈴木:香蘭では今年4月から、今まで以上に組織で動く学校に変えていこうとしています。例えば、これまでは席替え時期ひとつにしても各担任の経験に任せてきましたが、今年からは学年主任を軸とした学年担任会で話し合い、多くの知識と経験を集積した学年運営を目指しています。組織化することで、これまで機能しなかったことや困っていたことに対し、熱心な話し合いも生まれているようです。 山﨑:山脇学園は組織がしっかりしています。ただし、トップダウンでは教員一人ひとりの考える力を削いでしまうことになるので、それぞれ、みんなの考えを出してくれと言っています。もちろん会議は、校長として自分のビジョンを話す場でもありますが、教員一人ひとり、あるいは学年で考えて提案してもらうことを大切にしたいんです。自由闊達な議論ができないと閉塞感が生まれるので、私は独裁者ではないんだよということを伝えています。 鈴木:私は、校長はあらゆる教学面・経営面で、責任を持って最終判断を下すこと、また生徒だけでなく同時に教員も守ること、そして教頭以下各先生方は生徒と触れ合う最前線の業務を責任を持って行うべきだと話しています。先生方には各部署での多くの権限を委譲し、学校を組織運営していきます。そのための教員研修会も行ってきました。これからも続きます。先生方には「プロ意識を持って」、また教職員全体には「チーム香蘭として」一致団結していこうと話しています。 山﨑:一年目だった昨年は山脇学園の実情を把握することから始めました。1ヶ月半くらいしたところで、最初の印象をまとめた意見を管理職会議で披露。その後、8月にキャッチアップをまとめて報告しました。その時、2期制から3学期制への移行を決定し、年間行事の見直しから始めて授業時間の確保に動き始めました。また中2までに中学3年分をやってしまう、かなり早い先取り授業をしていましたが、昔のゆとり教育時に比べて教える内容が1.5倍に増えている現状では早すぎて定着が図れないのが目に見えていたので、進度を緩めようということにしました。習熟度別クラス分けも、例えば4つではなくは3グレードにしようというように、適正な分け方に見直しました。また冬期講習、春期講習の導入や、高3生の直前集中講習を設けました。高3生の直前集中講習の一番の狙いは、1月に学校に来て、みんなでどういう生活をしているかおしゃべりしたり、仲間の顔を見たりすることです。それだけで孤独な大学受験が全く別のものになるんですよ。講習という名前をつけて生徒に登校を促したんです。 鈴木:精神衛生上もいいですね。先生方が講習なさるんですね。 どこの中高にもありがちですが、中学で教えている先生より高校の先生の方が優秀という大きな勘違いがあります。香蘭では、今年度、先生たちの努力に期待し中高の担当を崩し、全学年に分散配置してみました。 山﨑:中高では、高校の内容を教えられる人が中学でその教科の面白さを伝えられる、それが一番いい教員です。高校は教科指導、中学は生徒指導とか、その人の向き不向きとかで振り分ける場合もありますが、両方できてこそ教員だと思います。教科指導とクラス運営、どちらかが苦手な先生も確かにいます。でも、どちらかに決めてしまうと、その人の教員生活の限界を決めてしまうことになりかねません。山脇学園でも今年、中高の先生を混ぜて循環させました。ポテンシャルがあるのに発揮できていないのはもったいないので、先ほどチーム香蘭とおっしゃいましたが、色々な教員でチーム山脇を作っていきたいと思います。

校長対談:香蘭女学校鈴木弘先生・山脇学園山﨑元男先生【前編】

中高6年間も、その先も、 「天真爛漫に」「ひたむきに」生きる〝人〟を育てる 別学(男子校、女子校)は、私学の大きな特徴の一つです。別学出身の保護者であれば経験的に別学の魅力が分かりますが、共学しか知らない保護者にとっては、ベールに包まれた未知の世界?  2017年4月、校長として新しい学校に着任された香蘭女学校鈴木弘校長先生と山脇学園山﨑元男校長先生は、これまでの教員生活はオール男子校。そして若い頃に、それぞれの学校でバスケットボール部の顧問をしていた頃からの旧知の仲。奇しくも同じタイミングで、しかも校長として人生初の女子校生活に飛び込んだお二人に、女子校の魅力をたっぷり語っていただきました。 1年前は、女子のスカートのはき方ひとつとっても、初めて見ることだったとか。校内の環境、衣替えの有無、クールビズなど、日常生活の有り様もそれぞれに違うので、お互いの学校にも興味津々のご様子ですが、中高時代を女子校で過ごす意味は共感しながらの対談となりました。 対談:2018年7月4日 対談場所:香蘭女学校校長室 インタビュー:NettyLand編集部 【前編】ジェンダーバイアスなく、自分らしくいられる女子校 ————お二人とも女子校は長い教員生活で初めての経験ですが、女子校に入ってみて、どのような感想をお持ちになりましたでしょうか。 山﨑:男子校と女子校は違うんだろうなと、漠然と思っていたんですが、違う面と違わない面がありました。山脇学園からお誘いがあったとき理事長に、「女子教育の経験はないんですが・・」と申し上げたんですが、「大丈夫ですよ」とおしゃってくださいました。男子校ではありますが、1994年から96年にイギリスのイートン校で教壇に立っていた時、そんなに英語力のない私でも、生徒は先生扱いしてくれました。そのとき、どこの国でも、どんな立場でも、教員と生徒の関係性はあまり変わらないだろうと感じたんです。その経験があったので、男子校、女子校でもあまり変わらないだろうなと思うことができました。実際、あまり変わりませんね。 ただ細かくみると、やはり違いはあります。生徒への手のかけ方、かけどころが一番違います。手をかけない、「とにかくやってみれば」が校風の男子校(武蔵)にいたのですが、女子校はそうはいかない。例えば、遠足の行き先のトイレの数まで細かく考えておかないといけないということに実際に直面すると、それは驚きでした。 鈴木:私も、びっくりしたことはたくさんありますね。 男女の違いに関しては、立教にいたときは、女子校の立教女学院と香蘭女学校。男子校の池袋と新座。いつも比較されていました。大学から見れば、英検2級も女子校は早くからクリア、男子校は遅い、男子はもっと勉強しなさいと言われていました。 そして香蘭に来て、最初にびっくりしたのは運動会。まず完全非公開、撮影禁止ということです。考えて見れば今の時代、当然かもしれませんね。 それ以上に驚かされたのは、生徒です。運動会前の礼拝で、ついつい手を抜きがちな男子校のイメージを浮かべて、大勢集まると手を抜く人が出るという集団心理の話を取り上げ、「今度の運動会はみんな手を抜かず頑張ろう」って話したんです。しかし、始まってみると運動会で手を抜く生徒は見当たらないのです。みんな一生懸命。閉会式で生徒に謝りました。「みんなごめん、この前の話は皆さんにあてはまらなかった」って。千人を超える全校生徒が一斉に体操座りした時、隣の理事長に「まるで静止画ですね」と感激して話したのを覚えています。プログラムは楽しく和気藹々の種目もありますが、女子はダンスが大好きですね。 山﨑:私の初めの印象も、生徒は真面目でひたむきだということです。行事にしても、そう。山脇学園の体育祭では、代々高3生全員で「ペルシャの市場にて」を踊ります。踊り始めから泣いている子もいるくらい、気持ちも高ぶっていますし、後輩にとっては憧れでもあります。体育祭が終わって全員下校した後に高3生だけが残って、もう一度、踊ってくれます。赤坂のビル群の灯りに照らされた校庭で、教員のために披露してくれる「闇ペル」、とても感動しました。合唱祭では中3生は全員第一制服(日本初の洋装の制服)に三つ編みで歌うのが伝統です。そんな行事でみる生徒のひたむきさは、言葉では言い尽くせないくらいですね。 ————お二人と生徒との距離がとても近付いているのを感じます。生徒との距離が縮まった瞬間、出来事はありますか。 鈴木:私は授業を持っていませんが、校内では生徒たちは好意的に挨拶してくれます。遠くから手を振ってくれたり、目が合うとキャッキャと笑いかけてくれます。こんなコミュニケーションの取り方は男子校にはなかったので、自分の身繕いを見直してみたり、周りを見回したりしてしまいました。教室の窓の下を歩いていたら教室の窓から手を振ってくれたので、思わず手を振り返したら、「授業中よ」という先生の姿が窓に見え、焦ったこともありました。生徒にとって私は叔父さんくらいに見えるのでしょうか、親しみを持って接してくれるのかなと思います。 校長室生徒たちが来ることがあります。この間は生徒会の役員たちが来ました。いつの時代もそうなのですが、自治活動の現状には制限があって窮屈だと感じている生徒もいます。変えたいところがあると意見を求めて来ました。自治活動は大切です。全校の総意を集めるにはどうすべきか、そしてその後、どう議論を進めたらいいのかなど悩みを聞きました。 山﨑:山脇学園の生徒も、廊下などで挨拶してくれますね。私は中1全員に道徳を教えています。山脇がどんな教育を目指しているかという、自校教育を交えます。去年の体育祭の開会式で生徒の挨拶がとてもよかったので、普通に話したら負けるなと思って「今日はみんなの安全を願ってミッキーマウスのネクタイをして来た」と言ったら、大受け。列の後ろの方から「校長先生かわいい」なんて声が飛んで来て「校長にかわいいなんていうなよ」って笑ったんですけど、その後、生徒との距離が縮まったと思います。 山脇学園に来て感じたのは、先生と生徒の距離感が近いということです。面倒見が良いっていうのは、裏返せば、うるさい、厳しいということになりますが、厳しさは必要だと思います。時と場合にふさわしい節度のある、今の山脇生に好感を持っています。

2018年6月24日模擬国連報告会 〜 模擬国連は、フルコース 〜

今年5月にニューヨークで行われた、『高校模擬国連国際大会』に日本代表として参加した高校生たちによる渡米報告会が、6月24日、都内で開催されました。 ■□■そもそも模擬国連って?■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ここ数年、新聞等でも日本代表の活躍が報じられるようになり、「模擬国連」という大会の認知度も上がってきたように見えます。 模擬国連とは、その名の通り国連会議のシミュレーション(模擬)。ある国の大使となって、政策を立案し、会議を行います。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ ■高校模擬国連国際大会・日本代表への道ーーーーーーーーーーーーーー  国際大会(ニューヨーク)出場するまでには、大まかには次のようなプロセスがあります。 7月 募集要項および選考課題公表 9月 応募受け付け    定員をうわまわった場合、書類選考 11月 全日本高校模擬国連大会(東京)(※最優秀賞または優秀賞をおさめる) 翌年5月 高校模擬国連国際大会(ニューヨーク)へ日本代表として出場  摸擬国連では、全日本大会でも国際大会でも担当国は指定されるまで、どこの国になるのか、全くわかりません。数年前の代表には、国歌を覚えてテンションを上げた、という参加者もいましたが、その国のおかれた立場や事情はもちろん、国際情勢をリサーチし、政策を立案、会議に反映する・・・、一連の行動は担当する国の大使としてのもの。全日本大会では、その政策立案と会議行動が評価されます。議長は英語を使い、高校生たちはときに日本語でも発言しますが、英語を使いながら発言する様は、高校生に見えない瞬間もあります。このようにあらゆる要素が含まれている大会ですから、ある高校生から「模擬国連はフルコース」という言葉が出ると、誰もが深く頷いていました。 ■繋がる襷(たすき)ーーーーーーーーーーーーーー  昨年11月の全日本高校模擬国連大会で日本代表に選ばれたのは、浅野、海城、渋谷教育学園渋谷、頌栄女子学院、桐蔭学園中等教育学校、鳥取県立鳥取西、計6校の高校生たち(主に2人一組ペア)。日本代表になった参加者をもってしても、国際大会の議場に足を踏み入れた時に感じるのは、圧倒されるほどの緊張感といいます。報告会では全日本大会や国際大会の体験を通して感じたこと、成長したと思うこと、課題と考えることを話しました。「どうだ!」と言わんばかりの報告ではなく、工夫したこと、日本人の得意なところ、想定外の出来事や危機に直面したときの対応、思うようにいかなかった悔しさ・・・・。  見学者の多くは摸擬国連活動をしている高校生。報告者は、どのような会議行動が良かったかという実践的なアドバイスも織り交ぜて、見学者からの質問にも的確に回答し、まさに襷を繋ぐかのようなやりとりが続いたのが印象に残っています。  ある参加校の、引率の先生がおっしゃっていました。「彼らは〝摸擬〟とは思っていないんですよ」 ☺︎「志の高い同志と出会えた」 ☺︎「参加者は世界を少しでも良い方向に変えられると信じている人」 ☺︎「男女ペアだからといって、それによる悩みは特になかった」 ☺︎「アカデミックレベルの高い話を、同年代と話せるのが魅力」 ☺︎「自分がどんな人かを怖がらず知ることが大切」 ☺︎「トライアンドエラーの連続。最後までトライし続けた」

大妻中野の帰国小学生英語講座見学記

大妻中野中学校・高等学校は、2016年から、帰国生クラスを発展させた、国内生、海外帰国生で構成する、グローバルリーダーズコース(GLC)を設置。また学校単独での海外説明会、シンガポール入試など、いち早く海外での募集活動も行い、在籍する帰国生は全体の1割を占め、海外での滞在国も30カ国に及びます。国際社会で活躍する人を育てるグローバル校としての独自の存在感を示し、立ち止まることなく前に歩み続ける大妻中野。今回は帰国小学生英語講座をお伝えします。 ----------------------------------------------------------- 11年目を迎えた帰国小学生英語講座 -----------------------------------------------------------  大妻中野中学校では11年前から、同校のネイティブ教師による帰国小学生英語講座を開いています。4月から翌年3月までの毎週土曜日の午前中約2時間、帰国小学生が海外で身に付けた英語を保持、そしてその力を伸ばすように、アクティビティと4技能のバランスを取って学んでいます。中には保護者が英語ネイティブというお子さんも。また年度途中、いつからでも参加可なので人数は変動しますが、今年度は6月現在、約50名が登録しています。 ◆4月、今年度の講座がスタート  今年度のキックオフは4月14日(土)でした。この日は19名が出席、うち7名が初めての参加、12名は昨年からの継続で、打ち解けた空気と、新しい仲間と出会う緊張とでやや固い空気でスタート。冒頭、帰国小学生講座と中学入試を経て入学した在校生が英語で歓迎のスピーチをしてくれる姿に、見学の保護者は何ヶ月か先のわが子の様子をイメージしているのかもしれません。  この講座で大妻中野は、入学してもらうことを考えているわけではなく、小学生たちには英語の保持や友人作り、保護者には帰国生を持つ親同士が知り合い、意見や情報、内面を共有することを願っていることは、宣伝臭のなさからも伺え、学年や地域を越えたプラットフォームになっているようです。  さて初回は、自己紹介ののち体育館に移動、ドッジボールを楽しむうちに初対面の固さが徐々に薄れてきて、初参加の子ども達の表情にも笑顔が出てきます。講座担当のWillie Vickers先生は、アメリカで社会を教えていた教師経験もあり、生徒のやる気を引き出すのがとても自然で、発言の多い子、少ない子両方に目配りしながら、全体をまとめます。第一回講座を終える頃には、子ども達は友達関係へ一歩踏み出したようでした。

ランドセル売場と働く女性のためのスーツ売場を探検

今回は、視点を「学校」から「生活」に変えて、ランドセル、女性のビジネススーツについて取材しました。 ------------------------------------------- 今時のランドセル事情 ------------------------------------------- 「いちねんせい」になる子ども達にとって、ランドセルは希望のつまった宝箱。ご家族には、我が子の成長の喜びを感じさせてくれることでしょう。そのランドセルの販売時期が早くなっているというニュースを聞いて、今のランドセル市場を知るべく、横浜髙島屋のランドセル売場を訪ねました。 【早まる販売スタート】  百貨店やランドセル工房によって販売時期は、多少前後するかもしれませんが、髙島屋の場合、各店で今年は3月31日(土)から販売がスタートしました(昨年は4月1日)。昨年売上のピークは6月。今年も同時期になりそうな勢いで、ゴールデンウィーク以降の土日の売場は、子どもを連れた祖父母・父母の来店が途切れない状況だったといいます。取材日、6月初旬の平日にも関わらず、わずか30分の間にも、売場を訪れるご家族の姿は途切れませんでした。3年前までは夏休み期間中がピークでしたので、2〜3ヶ月早まっていることになります。  購入前に、祖父母や父母がインターネットやカタログで調べたり、複数の店舗に出向き比較検討したりする、『ラン活』(ランドセル活動)が活発化していることも、販売時期が早まっている背景のひとつだといいます。また髙島屋では、ランドセルの基礎知識、背負い方体験など、『ランドセルお勉強会』(予約制。無料)を開催。横浜店で5月に開催された際は定員いっぱいの参加があったそうです。  最近は、子どもの両親双方の祖父母がいっしょにランドセルにお金を出し合うケースも増えているようで、購入の平均価格も上昇する傾向にあるそうです。髙島屋の昨年平均単価は約64,000円で、前年比約2,000円増。   【カスタマイズで個性を演出】  保護者世代のランドセルは概ね、女子は「赤」、男子は「黒」だったかと思いますが、今は色の選択肢は多彩です。女子は赤やピンクのほか、キャメル、ブラウン、ネイビーといった色も人気。デザインはシンプルでも、別売りのリボンや鋲で個性を演出できるものの人気も高まっているとのことで、髙島屋ではそのニーズに対応するため、付け替えリボンも6〜8色展開しています。男子は依然として黒が主流ですが、ステッチやパーツに赤や青のワンポイントが入ったもの、スポーツブランドのロゴ入りが支持されるというように、男女で違いがあるようです。戦隊モノ好きの男子は赤に惹かれるものの、ベースは黒、ステッチに赤を効かせたデザインで、といったケースなどに対応できるほど、種類が豊富です。  また、ランドセルは6年間毎日使うだけに、素材も選択のポイントで、軽くて丈夫な人工皮革が主流です。他にコードバン(馬革)、牛革といった天然皮革を使用したモデルの人気も高まっているようで、「子どもに上質なものを持たせたい」という思いを反映しています。 【タブレットケース付き】 今年、髙島屋で展開数を昨年の1型から3型に増やしたのが、「タブレットケース付き」のモデルです。2020年のプログラミング必修など小学校でもタブレット端末の活用が進むことから、本体に取り付け可能なケースを付属でモデル投入。入学後に実施される改革を先取りした形で、我が子の教育環境への関心が高いご家庭の支持を得そうです。  ランドセル市場は景気にあまり左右されないとのことで、時期、ラン活、素材、売れ筋価格帯からも、家族の有り様や価値観が変わっても、新入学のお祝いという特別な贈り物であり続けていることが分かります。