千葉県・柏エリアの私立中高一貫校座談会
各校で異なる特色から知る「私学の魅力」とは?
子育て世代から人気の千葉県柏エリアにある人気私立中高一貫校から4名の校長に登場いただき、「私学の魅力」について座談会形式で伺いました

左から、二松学舎大学附属柏中学校・高等学校七五三和男校長、芝浦工業大学柏中学高等学校中根正義校長、麗澤中学・高等学校櫻井讓校長、流通経済大学附属柏中学校・高等学校堀江健二校長
6年間の一貫教育で段階的に思考力・判断力を育成

座談会では、各校のそれぞれの取り組みに対して活発に意見が交換された
編集部 本日は柏エリアの中高一貫校の立場から、「私学の魅力」と各校の取り組みについて伺いたいと思います。まずは、2023年に中学を新設し、3年目を迎えた流通経済大学柏の堀江校長からお話を聞かせてください。

流通経済大学附属柏中学校・高等学校
堀江健二校長
流通経済大柏(堀江校長)私学の最大の魅力は、やはり中高6年間の一貫教育を行うことで、時間的なゆとりが生まれ、生徒の成長をじっくりと段階的に支援できることにあります。本校では、中1・2を「基礎力養成期」、中3・高1を「実力養成期」、高2・3を「完成期」と位置づけています。基礎力からそれを土台に専門的な学問への取り組みにつなげることで、目指す進路を実現できるようにサポートします。
具体的には公立よりも主要5教科の授業時間数を増やすことで、各教科で深い探究を実現。思考力や判断力をしっかりと養うことができます。
また、本校では高校から入学する生徒もいて、中学と高校ではどうしても雰囲気が変わる部分があります。これは生徒だけでなく、保護者も含めていえることです。だからこそ中高の教員がしっかりと連携するようにして、中学から高校に進学したときも違和感を抱かずに、すんなりと充実した学校生活を送れるような環境づくりを意識しています。
二松学舎柏(七五三校長) 確かにいかにスムーズに中高を接続していくかは、6年間の教育を考えるうえで、大切なポイントですね。そこは学校としても十分配慮したい部分です。流通経済大学柏のように柔軟な対応を心がけることで、円滑な中高接続を進めることはとても大切だと思います。
編集部 具体的な教育内容としては、どのような取り組みに力を入れているのでしょうか。

理科と社会のクロスカリキュラムでは、カイコから絹糸をつくり、日本の歴史における生糸産業の重要性を学ぶ
流通経済大柏 ひとつは「体験学習」の充実です。知識があってもその知識を使えなければ意味がありません。適切な体験を通して、本物の知識を身につけて発信できる人材を育てていきたいですね。
例えば、中1の校外学習では留学生に浅草を英語で紹介し、もてなしをするプログラムを実施。中1には若干ハードルが高い内容ではありますが、そこにあえて挑戦することで、もっと英語を学びたいというモチベーションになっています。
さまざまな場面で体験型の「クロスカリキュラム」を行っているのも、本校の特色です。例えば藍を用いた「叩き染」では、理科の時間で実際に藍を育てて植物の特徴を学び、家庭科で叩き染を学習。理科と社会のクロスカリキュラムでは、「絹糸」をテーマに、理科でカイコを卵から孵化させるのと並行して、社会で富岡製糸工場の歴史を学びます。
我々が力を入れている取り組みとして、もうひとつ挙げられるのが語学教育です。校内にイングリッシュ・ラウンジを設置し、生徒たちはネイティブ講師と自由に交流できる場になっています。さらに第2外国語(中国語・フランス語・ドイツ語)を選択制で導入。生徒たちの関心や意欲も高く、さまざまな言語への興味が広がっています。
芝浦工業大柏(中根校長) 確かにグローバルといっても、英語だけではありませんよね。第二外国語で、さまざまな言語を学ぶチャンスがあるのは、まさに私学ならでは。すばらしい取り組みだなと思います。
ちなみに本校の英語教育では「英語を学ぶ」ではなく、「英語で学ぶ」ことを重視。特に中学生は文法よりもコミュニケーション手段としての英語教育を進めています。
麗澤(櫻井校長) 語学への取り組みは、ますます重要になってきていますからね。本校でも英語は授業以外に、普段の生活の中で使うチャンスをできるだけ増やしています。ネイティブ教員6人が生徒たちの学校生活に溶け込むことで、より英語が身近なものになっていますね。
人生の支えになる母校の存在 論語で人間教育も充実
編集部 では、次に二松学舎柏の取り組みについてお伺いしていきたいと思います。七五三校長先生の考える「私学の魅力」とは、どのようなものでしょうか。

二松学舎大学附属柏中学校・高等学校
七五三(しめ)和男校長
二松学舎柏 公立と違う「私学のよさ」のひとつに、卒業後も教員が異動せずに学校で出迎えてくれることにあります。おかげでいつでも母校に戻ってきやすいですよね。
卒業後も「ただいま、おかえり」の関係性を学校と築けることは、人生の大きな財産になります。悩んだり迷ったりしたときも、母校を訪れて信頼する恩師に気軽に相談することもできます。そういった絆は、中高6年間を過ごした私学だからこそ育めるものだと思います。
麗澤 卒業後も生徒が相談できる母校という存在は、とても心強いですよね。人間関係が希薄になりがちな今の時代だからこそ、いつでも戻ってこられる場所としての母校のような存在が社会で求められているように感じます。
編集部 二松学舎柏は「論語教育」で有名ですが、「論語」をどのようなかたちで教育に取り入れているのでしょうか。

「論語」が二松学舎の教育の柱。中高6年間で学びを深め、人生を生きるうえでの糧に
二松学舎柏 本校では、中高6年間を通して「論語」を学び、人間力とレジリエンス(復元力)を育てています。「論語」は子どもたちが生きていくための「人生設計」を自分で立てる力を育てる教材だと考えているからです。現代は「これをやればうまくいく」という時代ではありません。そんな時代だからこそ、論語のような「正解がない学び」が必要になっているのです。
とはいえ中学生はまだ漢文に不慣れですから、まずは素読・暗唱テストなどを中心に、漢文検定なども交えて「論語」を学びます。「論語」の基礎ができた高校生になってからは、週1時間、本校のオリジナルテキストを使って、具体的に「論語」を読み解いていきます。「論語」を通して「人として、いかにあるべきか」を自ら考えて答えを模索する時間を持つことで、人間的に大きく成長していくことができます。
「論語」は本校の教育の柱なので、すべての教員が論語を指導できる体制も整えています。
流通経済大柏 国語以外の体育や数学などの先生も論語を教えるということですか。まさに「教科横断型の教員体制」ですね。すべての先生が論語をしっかり理解しているという二松学舎柏の教育方針は、さすがだと感じます。
二松学舎柏 今年度から新たにスタートした取り組みとしては、「学校生活サポートチーム」もあります。
子どもたちは学校生活でさまざまな問題に直面します。そんな子どもたちや保護者の悩みを養護教諭・スクールカウンセラー・生活支援員などが連携し、チームとして生徒を支える体制を構築。
担任や副担任という一部の教員が抱え込むことをなくすことで、できるだけ早く、よりよい解決策を見つけられる体制をつくりました。
教科担当や支援職員も含めて全校横断的に情報共有をすることで、生徒の様子にもいち早く気づくことができます。学校の価値とは、究極的に生徒の「顔色の変化」にいかに気づけるかだと思います。だからこそ、学校全体で生徒を支える仕組みが必要だと考えました。
芝浦工業大柏 生徒のメンタルサポート体制を整備して、情報共有の仕組みを組織化しているのは、非常に参考になります。生徒のメンタルや学校生活における悩みごとへの対応は、どの学校でも課題意識が強くあります。運営体制などについて、参考にさせていただければと思います。
偏差値では測れない探究力を個別最適化して社会に貢献
編集部 芝浦工業大柏の中根校長は、「私学の魅力」をどのように捉えて、教育に具体的に落とし込んでいるのでしょうか。

芝浦工業大学柏中学高等学校
中根正義校長
芝浦工業大柏 「創造性の開発と個性の発揮」という建学の精神に基づき、「社会に貢献する人材の育成」を目指しています。本校は理系に強いイメージがありますが、社会に貢献するというのは、理系に限ったことではなく、文系であろうと同じです。ですから、「文理融合」「個別最適化」を意識し、偏差値では一概に測れない多様な教育を推し進めています。
二松学舎柏 「偏差値で測れない教育」という姿勢は、とても私学らしい価値観ですよね。文理融合で、理工系に偏ることなく「社会に貢献する人材を育てる」という理念の一貫性もとても印象的だと感じました。
芝浦工業大柏 だからこそ、重要になってくるのが「探究」です。生徒たちの知的な好奇心を育み、生涯にわたり学び続けることができる主体性を育てることが、私たち中等教育機関には求められているのではないでしょうか。
本校では、中学生から教科の中で問いを立てる、考えを深める、プレゼンをするなどの取り組みを積極的に行ってきました。高校生になると本格的に課題探究を始めます。
昨年度から「探究科」を新設し、中高を通じてのカリキュラム開発を行っています。中学では、毎週土曜日に探究型学習を行う「ワールドデー」を設け、生徒たちの興味関心を引き出す機会にしています。

芝浦工業大学に内部進学する生徒の一部を対象にした、高3時に週1回大学に通う高大連携プログラム
高校からは生徒全員が課題探究に取り組みます。本校は大学の併設校なので、高大連携をスムーズに進めることができます。そこで、芝浦工業大への進学を希望する生徒の中で、特に意欲のある生徒を対象に、高3時から大学の講義を先取り受講したり、大学の研究室に実際に配属し、大学の先生や大学院生から直接指導を受けたりすることも。自分で設定した課題を探究し、その成果をプレゼンする取り組みも始めました。高大連携を深化させ、中高大、さらには大学院までを視野に入れた12年一貫教育も目指しています。
なお、本校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)第Ⅲ期の指定校です。理数教育に力を入れており、中高連携の一環として、中学でもSSHに準じた取り組みを行っています。また、先ほど説明した課題探究では、全体の7割弱が理系分野の中身となっています。高1から高2の2年間をかけて研究を行い、毎年2月にポスターセッション方式で発表をしています。
流通経済大学柏探究やSSHの体制をしっかりと設計していて、ゴールが明確なのはさすがですね。中学から「問いを立てる姿勢」を育てていることがよくわかります。
麗澤 高3で大学の研究室に入り課題研究を行っているという話には、正直驚かされました。高大連携を最大限活かして、生徒の個性を伸ばしているのは、大学併設一貫校の大きなメリットですね。
芝浦工大柏語学教育については、先ほども申し上げた通り、単なる教科としての学習に留めず、探究や国際交流、プレゼン発表などと連動させることで、「実用的な英語教育」をデザインしています。
英語の授業をイングリッシュリッチで行うのはもちろん、中3のニュージーランド研修では、実践的な英語コミュニケーションとして、英語によるポスター発表なども組み込んで英語力を伸ばしています。
90年の伝統を持つ道徳教育 豊富な国際交流で生きた英語を
編集部 では、最後に麗澤の櫻井先生から、私学ならではの魅力ある取り組みについて教えていただけますでしょうか。

麗澤中学・高等学校
櫻井讓校長
麗澤 本校は「道徳教育の実践」を教育理念の柱として創立。イギリスのパブリックスクールにならい、全寮制の男女共学校としてスタートしました。2025年度で90周年を迎えています。
敷地は東京ドーム9個分に相当する約41万㎡。学校というより街といわれるほどの広さです(笑)。校舎も意図的に離して配置し、空間的なゆとりを設けることで「非日常的な教育環境」にしています。学校空間そのものが「学びの質」「心のあり方」に影響するという考え方は、私立だからできることだといえるでしょう。
また、本校では現在も中高生は全員、校内で調理された給食を食べます。全校生徒が同じ時間に食堂に集まり、同じごはんを食べることも、ある意味、道徳教育のひとつ。一緒に食事をしながら「このおかず、おいしいね」と会話することが、生きた学びとなり、絆を深めます。
二松学舎柏 麗澤ほど教育の軸として明確に「道徳」を掲げて徹底している学校は、私立の中でも貴重な存在ではないでしょうか。理念と実践が90年積み上げられてきた証拠ということ。本校でも、その姿勢をぜひ見習いたいですね。

海外姉妹校と盛んに交流をすることで、生徒たちもスムーズに英語でコミュニケーションができるように
麗澤 教育面では、まずひとつが慶應義塾大学など複数の大学と連携したゼミ形式の探究と論文作成を2025年度から本格的に導入しています。また、「DXハイスクール指定校」として、情報教育にも注力。リベラルアーツとしての探究活動の中にDXの視点を入れることで、文系・理系かかわらず情報活用やデジタルツールを扱う力をつけていきます。
グローバル教育では、豊富な国際交流が麗澤の特色です。中3は全員がイギリスにホームステイ研修、高校生は希望制でアメリカ、オーストラリア、タイ、台湾などへの海外研修があります。加えて、本校では毎月のように海外提携校からの生徒や教員を受け入れているので、そういう意味でも日常的に国際交流が行われています。
生徒にとって国籍、言語、文化、歴史、思想は違っても、身振り、顔の表情、声のトーンなど周囲の状況をしっかり読み取ることが、広い意味での読解力になり、「通じた」という体験をすることこそが重要です。
芝浦工業大柏 国際交流がとても日常的で、「英語を使って誰かとかかわる」経験が格段に多いことがよくわかりました。本校が目指している姿をすでに体現されていると感じます。
二松学舎柏 麗澤では学校生活にしっかりと「学び」が落とし込まれている印象があります。日常的な教育活動に理念が息づいているんですね。
流通経済大柏 90年の歴史を持つ道徳教育、そして探究や情報教育などをすべて網羅しているのがすばらしいです。「これを一貫してやる」という学校のブレない強い姿勢にも大いに学ばせてもらいたいですね。
編集部 最後に本日の座談会の感想を一言ずつお願いいたします。
流通経済大学柏子どもたちにとって魅力のある私学という居場所をどうつくっていくべきか。改めて考えさせる貴重な機会になりました。
二松学舎柏 各校の特色ある取り組みを聞くことで、「私学のよさ」を再認識できましたね。
芝浦工業大柏 それぞれの取り組みを知ることで大きな刺激をもらいました。このように各校が切磋琢磨することが、私学全体のさらなるレベルアップにつながると思います。
麗澤 「違い」を知ることで、それぞれの「らしさ」が見えてくる充実した座談会でした。
編集部 本日は各校の教育の特色など、大変有意義なお話を聞かせていただきありがとうございました。
※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。
芝浦工業大学柏中学高等学校
「創造性の開発と個性の発揮」を建学の精神に、チャレンジ精神と個性を生かした自由な校風が特徴。知識集約型の教育から課題解決型の探究教育に転換し、文系・理系の枠組みに捉われない課題探究活動を実践。探究活動・グローバル教育・サイエンス教育に注力し、グローバルな人材育成のため、独自の留学・進学プログラムを実施している。

中3全員が参加するニュージーランド研修では、ホームステイや現地校生徒と英語で交流

探究授業の研究結果を海外の発表会でプレゼン。銀メダルを受賞
https://www.ka.shibaura-it.ac.jp
〒277-0033 千葉県柏市増尾700 TEL:04-7174-3100
アクセス 東武アーバンパークライン(野田線)「柏駅」「新柏駅」よりスクールバス
二松学舎大学附属柏中学校・高等学校
「グローバル探究コース」と「総合探究コース」の2コース制をとり、「人間力の向上」「学力の向上」を2本柱に日本文化とグローバル教育に力を入れている。「自問自答」をキーワードに、「論語」教育や体験型校外学習などを通じて主体性と協同性を獲得。中3では3年間の集大成として、8000字の卒業論文と7分間のプレゼンテーションにチャレンジする。

多彩な年間行事で充実した学校生活を。中1では田んぼの教室(田植え)も

人間力と学力の向上を教育の2本柱に掲げ、私学ならではの特色ある教育を
https://www.nishogakusha-kashiwa.ed.jp/
〒277-0902 千葉県柏市大井2590 TEL:04-7191-3179
アクセス 「柏」「新柏」「我孫子」各駅、北総線・新鎌ヶ谷各ルートからスクールバス(無料)
流通経済大学付属柏中学校・高等学校
1985年創立の流通経済大学付属高等学校に繋がる中高一貫校として、2023年4月開校。将来を見据えた「未来創造教育」を実践する。激変している社会情勢の中でも逞しく「国際社会に貢献できる有為な人材」の育成のため、何色にも染まっていない学校だからこそできるワクワク感を持って、慣例に捉われないグローバル教育にチャレンジしている。

中学創立1期生が中3となり、3学年の体制が完成。ICTを駆使しながら、グループワークや体験学習などコミュニケーションスキル向上も目指す
https://www.ryukei.ed.jp
〒277-0872 千葉県柏市十余二1-20 TEL:04-7131-5611
アクセス 東武アーバンパークライン「江戸川台駅」、つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス駅」よりスクールバス約10分
麗澤中学・高等学校

「自分(ゆめ)プロジェクト」の集大成、中学3年生のイギリス研修の様子。大英博物館にて
創立者・廣池千九郎が提唱した「道徳科学(モラロジー)」に基づく知徳一体を教育理念とし、「感謝の心」「思いやりの心」「自立の心」を育む。論理的思考力や発信力を磨く言語技術教育と4技能を鍛える実践的な英語教育を軸に、地球規模の視点で物事を考え、能力を発揮できる「本物の叡智」を兼ね備えたグローバル人材を育成している。
https://www.hs.reitaku.jp
〒277-8686 千葉県柏市光ヶ丘2-1-1 TEL:04-7173-3700
アクセス JR常磐線各駅停車(東京メトロ千代田線直通)で「南柏駅」下車、東武バス東口1番乗り場より約5分「麗澤幼稚園・麗澤中高前」下車。