千葉県・市川エリア私立中高一貫校座談会
探究活動の現在と未来
生徒に寄り添い、先生と生徒が一緒に学び合う探究活動
身近な課題意識から自分なりの「問い」を立てて、課題解決に取り組む探究活動が活発に行われています。それぞれの特徴を生かしながら、千葉県・市川エリアの私立中高一貫校3校では、どのように取り組まれているのでしょうか。担当の先生方に伺いました。

左から市川学園 庵原仁先生、日出学園 石川茂先生、昭和学院 土屋久美先生
■学校の特徴を活かした
探究学習の進め方
編集部 各校で進めている総合学習の概要と特徴を教えてください。
日出学園(石川先生) 本校では昨年から、中学・高校ともに図書館とコンピューター室を含むメディアセンターで探究活動を行っています。教室からメディアセンターに移動して探究学習を行うことが本校の特徴です。2024年の創立90周年記念事業の一環として、大幅にリニューアルした施設で、可動式の椅子と机を導入したオープンスペースになっています。探求学習の時間は他の教員だけでなく、学校見学に来られた保護者など誰でも見学できますから、皆さん、びっくりされますね。「ここで授業をしているのですか!?」と。私も時々、生徒のプレゼンを聞きに覗いているのですが、担当の教員が「石川先生にも聞いてみましょう」と話を振ってくる。生徒たちが気軽にいろいろな先生のコメントやアドバイスを聞けるという点も、すごく良いと思います。図書館に備えられている書籍で確認できるメリットもあります。メディアセンターで授業をするようになってから、図書館を利用する生徒も増えました。

昭和学院中学校・高等学校
土屋久美先生
昭和学院(土屋先生) 本校の探究活動は「社会理解と自己理解」を大きな柱としています。中学では「自分を知る」「地域を知る」「社会を知る」をテーマに、学年ごとに学びをステップアップさせながら、チームを組んだりクラス横断で行ったり、少しずつ形を変えながら調べる→まとめる→発表するというスキルを強化しています。高校では高大連携や産学連携にも取り組みながら、目の前にある社会問題の解決法を探っていきます。4年前から、キャリア支援・探究プログラム「ディスカバ!」を導入しました。毎週水曜日に「ディスカバ!」のスタッフやサポーターの大学生10人ぐらいが来校して、生徒たちとテーマの壁打ちをしてくれます。生徒たちの課題や関心を引き出し、言語化スキルを高めることが目的です。高2では自分の興味関心を起点とした「マイゼミ」(週2時間)で探究活動を展開。「医療・福祉」から「芸術創造」まで多彩なゼミに分かれて、1年間を通して自分のテーマを探究していきます。
市川学園(庵原先生) 本校の特徴は、SSH指定校の強みを活かして、文系・理系を問わず理科を中心とした実験・観察を重視していることです。中学3年間は、個人の興味関心から「問い」を見つけ、仮説・検証と段階的にステップアップしながら、高2の課題研究に繋がる探究ノウハウを身につけていきます。探究の授業だけでなく、普段の各教科の授業でも探究的アプローチを組み込んでいます。中1の理科では、週2回、2コマ連続の授業を実験室で行っています。探究で「問い」を立てるには、観察する力と物事を正しく見る目を養うことが重要なので、例えば生物分野では、桜の葉を2時間観察してスケッチをするとか、地学分野では学校周辺を2時間かけて歩き回りながら地形を観察するとか。教科書から離れて、実物の特徴を捉えるところから「問い」を見つける観察眼を養う、というようなことを行っています。
■探究学習で大事にしていること
編集部 探究学習で大事にされていることは何でしょうか?
日出学園 基礎基本をしっかり教えて、ITを使って社会の仕組みやビジネスを変えるDXの手法を獲得させることです。基礎基本を身につけて使いこなせるようになっていれば、今ある仕事の半分がなくなるかもしれないとされる社会に出てからも、ある程度、実践・応用できるだろうと。AIとうまく付き合っていかなければいけない今だからこそ、「問い」の立て方を重要視しています。ICT教育を重視してきた本校は、ChatGPTがリリースされた初期段階から保護者の許諾をとって、いち早く授業や探究学習でAIを活用してきました。最近、生徒会活動に参加する生徒が増えてきました。教員と交渉する際にも、単にああしたい、こうしたいという願望ではなく、何故それが必要なのかを論理立てて具体的なプランを持ってくるようになりました。そうした行動の一つひとつに、探究の成果が活かされていると思います。
昭和学院 4年前にこの学校に赴任して最初に感じたのは、教員自身が自分は専門家ではないというもどかしい気持ちを抱えながら探究を指導されていることでした。探究で好きなことを深掘りするのは楽しいなと思えるように、教員と生徒が一緒に学んでいこうというところから始めています。日出学園さんが「問い」にこだわっていらっしゃるとすれば、本校のこだわりは「トライ&エラー」。何を考えてどう思ったからこうなって、だから次はこうするというプロセスを振り返りも含めて繰り返し行い、とにかく言語化させること。生徒たちが“(学びに)終わりはない”ことに慣れて自走できるようになるまで、教員が生徒と一緒に走ることを大事にしています。

市川学園市川中学校・高等学校
庵原 仁先生
市川学園 本校の探究は理科的な取り組みから始まったのですが、進めるうちに生徒の興味関心が自然科学系に限らず、社会科学系など幅広い分野に広がっていきました。そういう意味では、科学的な探究の進め方の作法に則っていくことを大事にしています。実験・観察の重視もそうですし、先行研究を調べるとか、調査や実験をする際にも、変数制御ができているかどうか、条件設定が正しくできているかどうかなど、論理的思考力を育てることに重きを置いています。
■「問い」が決まるまで
対話に時間をかける
編集部 「問い」を立てる重要性が言われますが、先生方が苦労されるのもそこですね。
日出学園 中学では、最初はテーマに関係なくチームを作らせて、各自が何をやりたいか話し合わせます。「問い」が見つからなかったら、他の人の意見を聞いて自問自答してごらんと。その意味で探究の授業は、人間的なコミュニケーションを図る上でも必要な時間だと実感しています。お昼休みや放課後など授業以外の時間に集まって話し合っている場面を見ても、すごくいいことだなと思います。
昭和学院 教員はとにかく否定しないことが一番重要で、どんなにくだらないテーマでも、「とても面白い」「それで?」「いいじゃん!」と生徒に話させていくうちに、だんだんテーマの本質が見えてくる。だから、とても時間はかかります。教員や友達、いろいろな人と話して言語化するプロセスを経ることで、最終的に自分の中で腑に落ちていくのだと思います。本校の探究の時間割は、中1から高3まで毎週水曜日に集中して行っています。カフェテリアスペースで取材先にアポイントの電話をしている生徒、研究材料の撮影をしている生徒、講師の先生を捕まえてインタビューをしたり、音楽をつくったり、ものづくりをしたり。とにかく生徒たちが動き回っている。校舎全体がカオスになって、もう不思議な時間です。
市川学園 「問い」立ての重要性はもうずっと言われていることで、どの学校も試行錯誤している永遠のテーマだと思います。どの生徒も自分の「問い」が適切かどうかなんて、最初から自信はないのです。だからこそ、教員やいろいろな人と話をしながら、自分が本当に好きなものを見つけていくプロセスがとても重要なので、本校もその時間はできるだけ担保するようにしています。「問い」が決まって解決策を導く過程では生成AIも手助けしてくれるだろうけれど、最初の「問い」立てが決まるまでは自分自身との対話ですから、AIにはできないことです。高1の12月頃に最初の「問い」立てをして、冬休み明けに教員と2回くらい話して中身を詰め、高2の最初の2カ月間で絞っていく。その後に、生徒一人ひとりが「私はこんな『問い』を立てました」と発表する構想発表会を開きます。
■優劣をつけない
「探究フェスティバル」
編集部 探究活動の発表会も年々、盛んになっています。
市川学園 毎年3月に中高合同で行う「市川アカデミックデイ」を開催しています。テーマは自由。個人・グループに関わらずエントリー制で、スライド発表とポスターセッションの2つの形態で行っています。それと、中学生が日頃の研究の成果を学年ごとに発表する「ミニアカデミックデイ」も開催します。調査→体験→発表→振り返りという学びのサイクルを定着させ、表現力を高めることに繋げています。
昭和学院 4年前から中高の全員が参加する「探究フェスティバル」を開催していましたが、昨年初めて、学校の枠を超えた探究発表を行いました。10校の他校生が参加し、発表総数は694本。バスケットコート3面分の体育館や校舎にポスターやブースを置き、見学者が来ると発表するというのを延々繰り返す。多種多様な発表を見ることで生徒たちの視野も広がるし、優劣をつけない会があってもいいのではないかなと思って始めました。運営も生徒主体で行っています。
日出学園 本校も定期的に探究発表の機会を作っていますが、昭和学院さんの「探究フェスティバル」には本校の生徒も参加していて、今年は「宗教別の階級社会の仕組み」というテーマで発表していましたね。
■探究のテーマは無数にある
編集部 印象に残っている探究テーマがあれば教えてください。
市川学園 面白いという意味では、昆虫を観察対象にして「集団の中に、『あまのじゃく』は何故生まれるのか」とか。その生徒は自動的に群れの行動を解析するプログラムを組んで探究していました。「有事の際の経済的リスク」というテーマで、マラッカ海峡を例に、数学的なデータを使って分析した生徒もいました。もちろん生徒によって違いますが、本校の場合、探究テーマをそのまま進路に繋げる生徒は少ないかもしれません。ここでの学びはまだまだ狭い世界ですし、大学でより視野が広がったところで、改めて自分の興味関心を見つけていく生徒も多いですね。
昭和学院 「1秒の長さは人それぞれに違う。1秒の感覚を見える化するために、一人ひとりの個人時計を作りたい」と言った音楽系ゼミの生徒がいました。時計職人さんにアポイントを取って試行錯誤したのですが、言語化するのが難しくて途中で挫折してしまったけれど、その発想が面白かったですね。奇想天外なものから現実味のあるものまで千差万別ですが、本校では外部の専門家に連絡してタイアップすることを促しています。依頼の仕方やお礼の返事の書き方とか、一つひとつが生徒にとっては学びのプロセスです。

日出学園中学校・高等学校
石川 茂先生
日出学園 面白いテーマは無数にあるのですが、印象に残っているのは、僕をネタにした生徒がいたこと。「石川先生の授業は、何故こうなのか」と。考えてみると、その生徒の学年の英語の授業で、私が定期試験の問題を生徒たちに考えさせたことがあったのです。何故その問題を出したのか、授業でプレゼンさせて。実際にその問題を出すと、みんな面白がってちゃんと覚えてくる。本校では、探究の手法を他教科の授業にも応用して繋げていこうと推奨しているので、他教科にも影響は出ており、職員会議でこんな授業をやっていると、教員同士が共有するようになりました。
■AI時代の教員の役割と
今後の課題
編集部 生成AIの急速な普及によって探究活動での先生方の役割も変化していくと思いますが、先生方ご自身はどのようにお考えでしょうか?
日出学園 正直に言えば、我々自身もまだわかりません。生徒とともに検証しながら、教える・教わるが共存していくのではないでしょうか。私自身も、ChatGPTはなぜ親の許諾がないと使えないのかをGeminiに聞いてみたり。生徒たちには、大人も子どもも関係なく、正確な情報を共有していこうと教えています。
昭和学院 私たち教員ができることは、「どうしてそう感じたの?」「参考文献は?」とか深掘りしていく作業だと思います。その意味では、生徒たちがどういう使い方をしようが、行き着く先は一緒だなと思っています。国語の授業で小論文を書かせた時に、同じように生成AIを使っているのに、テーマとズレる生徒とズレない生徒がいたので、これはなぜだろうと問題提起をした授業をしたことがありました。議論も盛り上がって、生徒たちも面白がっていました。教員ができるのはそこだなと。
市川学園 僕自身も使ってはいるのですが、時には間違った答えを出してくることもあって。だから、ちゃんと自分の知識を持って使わないとダメだよということを教えていくのが、教員の役割かなと思っています。AIにも得意なことと得意じゃないことがあるので、生徒たちには、「大事なところは自分でやるように」と言っていますね。
編集部 最後に、今後の課題について教えてください。
日出学園 本校は人間教育を重要視していますので、探究授業に関わらず、すべての学びにおいて人と人とのコミュニケーションを大切にしていきたい。最後は、人と人だよということを、いかに教えていけるか。それが課題だと思っています。これは逆説的な言い方ですが、中途半端で終わらせるのが一番いいかなと。つまり、答えを出さない。正解を出さなければ、ずっと続いていくわけですから。
昭和学院 生徒たちはどうしても、探究活動が入試にどう繋がっていくのかと考えてしまいます。探究の学びは入試のためではなく、どうやって社会と自分が繋がっていきたいか、どう生きていくべきかを考える手がかりにしてほしい。そこが課題で難しくもあり、夢があるのかもしれません。
市川学園 探究の指導は難しいです。取り組む生徒も伴走する教員も大変なので、例えばコンテスト入賞とか、つい成果を求めたくなる。結果が出れば、教員も嬉しいので、伴走よりも指導したくなってしまう。そのバランスが難しいですね。私自身は基本的に探究に優劣はないと思っているので、生徒も教員も楽しみながらやっていければいいと思っています。
編集部 ありがとうございました。
※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。
日出学園中学校・高等学校

可動式の椅子と机を導入し、探究授業で活用しやすい図書館(メディアセンター)のスペース
「誠(なおく)、明(あかるく)、和(むつまじく)」という校訓の下、中学校は1クラス約30名という少人数制を活かした人間教育を重視。アットホームな校風ときめ細かな指導、文理横断の先進的なICT教育が特徴で、自ら行動する力を育んでいる。1934年創立。
https://www.hinode.ed.jp/high/
〒272-0824 千葉県市川市菅野3-23-1 TEL:047-324-0071
アクセス 京成本線「菅野駅」徒歩5分。JR総武線(快速)「市川駅」徒歩15分または京成バス5分「日出学園」。JR常磐線「松戸駅」から京成バス20分「菅野六丁目」徒歩5分
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昭和学院中学校・高等学校

充実した教育環境のもと、一人ひとりの個性を大切にした学びで、これからの社会に必要な力を育む。
「明敏謙譲」を建学の精神に掲げ、知・徳・体の全人教育を実践している。生徒一人ひとりの将来の夢や目標に合わせた多彩な5コース制が特徴。生徒と先生が一体となり、アクティブな教育活動を展開している。1940年創立。
https://www.showa-gkn.ed.jp/js/
〒272-0823 千葉県市川市東菅野2-17-1 TEL:047-323-4171
アクセス JR総武線・都営新宿線「本八幡駅」、京成本線「京成八幡駅」徒歩15分(バス約5分)
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市川中学校・高等学校

夢中になって打ち込むクラブ活動も、大切な仲間たちと過ごす貴重な時間だ。
「独自無双の人間観」「よく見れば精神」「第三教育」は創立以来不易の建学精神。2009年以来、4期連続でSSHに指定されている理数教育の名門校で、多くの生徒たちが専門性を生かした主体的な研究発表を行っている。1937年創立。
https://www.ichigaku.ac.jp
〒272-0816 千葉県市川市本北方2-38-1 TEL:047-339-2681
アクセス 「本八幡駅」「西船橋駅」「市川大野駅」からバス
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