千葉県・市川エリア私立中高一貫校座談会
未来を生きる子どもたちに必要なグローバルマインドの醸成
加速度的にグローバル化が進む中で、異文化を理解し、国際的な視点を養い、地球規模で活躍する人材を育成するための中等教育がますます重要性を増しています。特徴あるグローバル教育を展開している千葉県・市川エリアの私立中高一貫校3校の取り組みについて担当の先生方に伺いました。
理想のグローバル人材像と多彩なグローバル教育
編集部 各校が育てたいグローバルな人材像から教えてください。
日出学園(髙味先生) グローバルに活躍する人材という言葉からは、とにかく英語ができる人というイメージが先行しがちです。でも、グローバルという言葉の本質を考えれば、異なる価値観を柔軟に受け入れながら「他者と対話する」「他者と共生する」姿勢を持った人が求められる人材であり、世界で活躍できるグローバル人材だと思っています。そうした素地を育てるために、本校でも英語教育、国際交流などさまざまなカリキュラムに取り組んでいます。
昭和学院(大坪先生) 本校でグローバル教育に特化しているのがIA(インターナショナルアカデミー)コースです。7名のネイティブ教員と日本人のダブル担任制をとっており、授業以外でも日常的に英語が飛び交う環境です。ただ、グローバル教育において英語以上に重要なことはマインドセットだと私は考えています。髙味先生が言われたように世界にはさまざまな価値観があることを前提にしたグローバルマインドを育むことが大切で、「英語を学ぶ」というより「自分の意見を英語で主張する」主体的なコミュニケーション力を教育のコンセプトとしています。常に周囲に対して「何故?」と問いかける力を、自分の中に持っていることが大事。だからネイティブ教員にもできるだけアウトプット中心の授業になるようにお願いしています。

市川学園市川中学校・高等学校
「トビタテ!留学JAPAN」の活動で、アフリカのタンザニアで教育ボランティアに参加した
市川学園(梅村先生) 本校のグローバル教育全体に共通して言えるのは、自分探しをしてもらいたいということ。海外研修や国内研修を含め、常に内と外からの新しい刺激を受けて、自分がどういう人間で、将来何をしたいのかを見つけてもらうことを目標の一つにしています。
編集部 そのようなグローバル教育の理念を実現するために、どんなプログラムを実施されているのでしょうか?
日出学園 本校では放課後学習クラブという、教科のプログラムとは別の枠組みで各教員がいろいろな講座を開いています。希望する生徒だけが参加するもので、英語科の石川茂入試広報部部長が長年取り組まれているボランティア活動「FLYERS」もその一つ。私は英語でディベートする「日出ディベートスクワッド」に取り組んでいます。英語ディベートには即興型と準備型があり、私たちが取り組んでいる準備型は、事前に調べた知識や資料を基に肯定側と否定側に分かれて試合(ディベート)をして勝ち負けを決める競技です。

日出学園中学校・高等学校
「日出ディベートスクワッド」に参加して、英語で発信する楽しさに目覚めた森川くん
否定側も肯定側もしっかり準備をして試合に臨むので、多角的に物事を考える訓練になるのです。全国大会出場を目指して千葉県大会に参加したり、オンラインを通じて全国の学校と試合をしたり。「代理母出産の合法化」とか「原発廃止の是非」といった社会的なテーマが多いですね。私が実感したのは、反論が作れない議論はないこと。どんな物事にも必ず賛成と反対の理屈がある。世界にはいろいろな価値観があることを生徒たちが実感する意味でも、ディベートはとても良い方法だと思っています。
昭和学院 本校では授業にディベートを取り入れています。準備型ではなく即興型。ネイティブ教員の「英語研究」の授業で、中学生段階では、それこそ「ブドウとリンゴのどっちが好き?」といった簡単なものから練習していって、徐々に慣れてきたら授業の最初にトピックを発表し、20分の準備時間を置いてディベート&ディスカッションに繋げていきます。高校生になると、自然に意見・理由という論理的な形で英語が話せるようになり、結果的に進路選択の一つに海外が視野に入ってくるようになればいいと思っています。
市川学園 本校の場合、ディベートに関しては生徒個人の活動に任せている部分が多いですね。教員はやりたい生徒の後押しをしているだけ(笑)。学校としては、国内外の研修や各種コンテストなど幅広い分野で自分探しに繋がる体験・課外活動を実施していますが、その中で一番、生徒が自分を見つめ直すきっかけになっているのは2015年から始めた文部科学省による官民協働の留学制度「トビタテ!留学JAPAN」(以下、トビタテ)だと思います。トビタテは生徒自身が書かなければならない提出書類が非常に多く、動機や活動計画、自己PRなどA4サイズで13頁。相手に伝わるライティング力も必要ですし、書類の作成段階でかなり深掘りしなければいけません。たとえ落選しても、自分自身や将来を見つめ直すきっかけとなり、大きく成長できる基盤となります。これまでに60名近くの生徒が日本代表として世界各地に飛び立って、活躍してきました。
語学研修型と交流型の海外研修 欧米圏からアジア地域まで幅広く
編集部 語学力と同様に、国際交流や海外研修もグローバル教育の大きな柱だと思いますが、どのようなプログラムがありますか?
市川学園 トビタテ以外の留学プログラムは希望制で、中3・高1はイギリスのイートンカレッジ研修とニュージーランド研修があり、高1・高2はイギリスのケンブリッジ研修とアメリカのボストン・アマーストカレッジ研修に参加できます。今年から新しく、中2・中3のアジア探究活動として「マレーシア研修」「タイ研修」を実施します。どちらも現地の文化を学びながらボランティアをやってみようという、英語に焦点を当てがちな海外研修とは少し視点を変えた取り組みです。中3の修学旅行(全員参加)は、今年から台湾に行く予定です。また国内で実施しているのは、海外の学生や留学生とディスカッションする「Global Studies Program」(中3・高1)、高大連携開催で神田外語大学でのプログラムに参加後に福島ブリティッシュヒルズで合宿を行う「神田外語大学グローバル・イシュー探究講座」(高1・高2)、8校合同実施の「Double Helix」(中3~高2)と多岐にわたり、いずれも使用言語は英語です。

昭和学院中学校・高等学校
IAコースの生徒が参加するアメリカ・ボストンの海外語学研修ではMITのセミナーにも参加
昭和学院 本校の場合は、中3の全コースでオーストラリア研修、希望制のカナダ研修があります。高校では希望者制のイギリス研修。IAコースでは、修学旅行という位置付けで米国ボストンの海外研修を実施しています。ホームステイでの異文化体験や現地学生との交流など、現地に行かなければ得られない体験ができるプログラムを組むようにしています。海外に出かけなくても、日本に留学中の大学生と会話したり、夏休みなどにネイティブの講師による5日間の集中授業を行うなど、国内にいてもできる講座も充実させています。高校の「総合的な探究の時間」の研究テーマによっては教員の人脈を活かして海外と繋いだりすることもあります。
日出学園 本校はオーストラリアの姉妹校セントポールズ・アングリカン・グラマースクールと1年ごとに交換留学をしています。昨年は同校の生徒約40名が本校を訪れ、各クラスに分散して授業を受けました。在学生の家庭にホームステイしながら、日本の家庭生活や学校生活を体験します。来年の夏休みは、本校の生徒たちが姉妹校を訪問します。そのほかにも生徒個人が自分で行きたい場所を探してきて、1年間留学に行ったり、ターム留学のプログラムを利用したり。自分で調べて探してという生徒の自主性を尊重して、それを教員が後押しする流れです。
海外大学進学への流れはどこまで来ている?
編集部 海外大学への進学に興味を示す海外志向の生徒に対する指導は?
市川学園 本校では国内で進学する生徒がほとんどで、海外大学に進学する生徒の数は例年2~3名といったところです。少数でも、本気で海外に行きたい生徒にはもちろん、推薦状や手続きなど全力でサポートしますし、本校独自の「HKなずな奨学金」で、海外大学進学の経済的支援も行っています。
昭和学院 進路相談の際に高3生から「海外大学にも興味があって」という話をちらほら聞くようになってきましたが、実際の進学実績としては年間1~2人です。保護者の方から言われるのは、もっと低学年の中学の早い時期ですね。
日出学園 本校も最近は、年間1人ぐらいですね。学校として何かを促すということはなく、生徒自身が自分で探して、自分で決める自主性を尊重する方針なので、生徒から相談があれば「よし、頑張ってこい」と全力で送り出す、といった形です。
昭和学院 漠然と海外留学を夢見る生徒はそれなりにいると思いますが、実際に大学受験の準備が始まるとやはり現実的になっていきます。もちろん我々にはチャレンジしてほしい気持ちはありますが、現在の日本の大学入試のシステムが変わらない限り、なかなか難しいことが多いのが現状ではないでしょうか。

英語力と同様に広い視野を持つ学びが大切と話す3校の英語科の先生たち
グローバル人材の基礎を育むリベラルアーツ教育
編集部 冒頭で英語力や海外志向だけがグローバル教育ではないというお話がありましたが、グローバル人材の基礎となる部分は、どのように育てていらっしゃるのでしょうか?
日出学園 先ほど、日出ディベートスクワッドの活動をお話しましたが、同じ放課後学習クラブの取り組みの一つに「コミュニケーション・ディベート」があります。生徒、卒業生、教員が一つのテーマに沿って「対話」するもの。勝ち負けや結論を導く、相手を論破することが目的ではなく、「対話(コミュニケーション)」を通じて多様な意見があることを知り、自分の視野を広げていく試みです。テーマに応じた専門分野のゲストをお招きすることもあります。例えば「『こころ』って何?」とか「ウソをつかないことは本当に正しいか」とか、哲学的なテーマを取り上げることが多いです。この取り組みも、物事を深く考え、自分の意見を持つ訓練になっていると思います。
市川学園 本校で行っているものとして、例えば高2を対象にしたLA(リベラルアーツ)ゼミがあって、教員自身が好きなテーマでゼミを開講し、生徒は自分の好きなゼミを選択します。例えば「映画で学ぶ世界史」とか「オペラ、その魅惑の世界」とか。ジャンルフリーで、生徒は少人数で主体的に学び、議論や発表をしていきます。また、哲学的なテーマで議論を深めることはとても重要で、対話型セミナーの「市川アカデメイア」(高2/希望者)をやっています。哲学や社会科学の古典を題材に教養を深める講座です。国際人として活躍していくために、さまざまな文化や価値観をもつ人々とコミュニケーションをとっていくために、アカデミックスキルに裏付けられた多角的な思考力を育てていく狙いです。
昭和学院 本校の「GA(ジェネラルアカデミー)コース」では、高2・高3で「マイゼミ」という科目があります。いわゆる受験勉強とは関連しない、生徒自身が興味・関心があるテーマを選んで、個人またはグループで行う探究活動です。年度末には「探究フェスティバル」というイベントがあり、探究活動の集大成結果を、ポスターセッション・プレゼンテーションという形で発表するのですが、そこではクラス横断・学年横断、さらにコース横断でも行っています。「価値観の違いを理解する」と言葉でいうのは簡単ですが、いろいろな人と出会い、考え方の違いを超えて同じゴールに向かって協働するプロセスを繰り返し何度も経験させることが、最終的にグローバル人材のベースになっていくのではないかと思っています。
私学のグローバル教育の行方とは?
編集部 今後、私学のグローバル教育はどういった方向に進むと思われますか?
日出学園 海外大学への進学とか日本を超えていくといった方向性ではなく、生徒にはむしろ自分自身の境界を超えていくイメージで、グローバル教育を捉えてほしい。教育現場でグローバル教育という言葉が盛んに使われ始めた当初は、どうやって英語力を向上させるかという英語教育や留学研修への取り組みがクローズアップされていたと思います。しかし今日、ここでも哲学対話とか探究のお話が出ましたが、むしろグローバル社会で生きるとはどういうことなのか、グローバルという言葉の本質を捉えた取り組みが重要になっていくのではないでしょうか。
昭和学院 ひと昔ふた昔前ならば、外国の方々と共に何かを成し遂げるためには日本から外に出て行かなければなりませんでした。しかし、今ではオンラインで世界中の人たちと手軽に繋がれるし、世界各国からたくさんの人が日本にやって来る時代に変わってきた中で、生徒に身につけさせたい力や教えたい力も自ずと変化してきました。半面、生徒や保護者の立場では英語力の向上を学校教育に求めるのは自然なことだとも思います。本校としてはその辺のバランスをとりながら、生徒の個性を伸ばすことや夢の実現をサポートしていきたいと考えています。
市川学園 グローバル教育とかグローバル人材の育成に、外国語とか海外という発想はもはや関係ないのではないか。生徒たちが社会人となった時に、日本という枠にとらわれずに世界規模できちんと活躍できる人、それがグローバル人材だと思っています。そのためのツールとして必要なのが英語力であり、他者理解やコミュニケーション能力であり、学校という教育現場で一番身につけてほしいスキルなのだと思います。であるならば、結局一番ベースとなるのは、生徒自身の人間力です。自分の世界観を持ちつつ、異なる世界観の人ともきちんと対話ができて、日本であれ海外であれ、どこでも働ける人材を育てること。その目標を実現するためのさまざまな機会を生徒たちに提供し、サポートしていくことが教育現場の役目なのだと思います。
編集部 ありがとうございました。
※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。
日出学園中学校・高等学校

正門から校舎に向かって真っ直ぐに伸びたプロムナード。広々としたキャンパス風景が広がる。
創立91周年の歴史と伝統を持つ。「誠(なおく)、明(あかるく)、和(むつまじく)」という校訓の下、中学校は1クラス約30名という少人数制を活かした人間教育を重視。細やかな指導で、生徒の自主性と個性を伸びやかに育てている。
https://www.hinode.ed.jp/high/
〒272-0824 千葉県市川市菅野3-23-1 TEL:047-324-0071
アクセス 京成本線「菅野駅」徒歩5分。JR総武線(快速)「市川駅」徒歩15分または京成バス5分「日出学園」。JR常磐線「松戸駅」から京成バス20分「菅野六丁目」徒歩5分
昭和学院中学校・高等学校

充実した教育環境のもと、一人ひとりの個性を大切にした学びで、これからの社会に必要な力を育む。
「明敏謙譲」を建学の精神に掲げ、知・徳・体の全人教育を実践。生徒一人ひとりの可能性を引き出し、多彩な進路を実現する5コース制を導入して5年。主体的な学びの中で、個々の能力・適性に磨きをかけた多様な人材を育成している。
https://www.showa-gkn.ed.jp/js/
〒272-0823 千葉県市川市東菅野2-17-1 TEL:047-323-4171
アクセス JR総武線・都営新宿線「本八幡駅」、京成本線「京成八幡駅」徒歩15分(バス約5分)
市川中学校・高等学校

夢中になって打ち込むクラブ活動も、大切な仲間たちと過ごす貴重な時間だ。
「独自無双の人間観」「よく見れば精神」「第三教育」は創立以来不易の建学精神。リベラルアーツ教育を中核に据えた教育方針で、自主自立の気風を涵養。豊富な国内外の研修プログラム・課外活動を特徴とし、難関国公立・私立大学の進学実績を誇る。
https://www.ichigaku.ac.jp
〒272-0816 千葉県市川市本北方2-38-1 TEL:047-339-2681
アクセス 「本八幡駅」「西船橋駅」「市川大野駅」からバス