私学探検隊

神奈川のカトリック校で初めて 国際バカロレアMYP候補校

聖ヨゼフ学園中学校は、2019年に神奈川県のカトリック系学校として初めて国際バカロレア(以下、IB)のMYP(中等教育プログラム)候補校となりました。本学園は、1953年に横浜市鶴見区でアメリカの修道会「アトンメントのフランシスコ会」によって設立されたもので、「アトンメント」は「和解(一致)」という意味の聖書の言葉から取られています。その精神は、多様な人々が理解し合い、良い世界を築くことを目指しています。

 

IBは元々、世界を転勤する家庭の子供たちのために、どの国でも認められる大学入学資格を作ろうという考えから始まり、その後中学生向け(MYP)や小学生向け(PYP)のプログラムも拡充され、広範な人々を対象とする教育システムへと発展しました。現在、多くの学校が行なっているグローバル教育の先駆けと言えるでしょう。

左から、小林先生、吉野先生

 

同校のIB推進部の吉野英男先生によれば、初めてIBを知ったのは2018年に系列の聖ヨゼフ学園小学校が、インターナショナルスクールなどを除いた一条校としては日本で初のPYP(初等教育プログラム)認定校となったからだそうです。しかし、その時はまだIBについての理解が深まっておらず、吉野先生も「初めて聞いた時はよくわからなかった」と述べています。2023年には、認定校・候補校が合計207校に増えましたが、それでも全国の学校数に比べればまだまだ希少な存在です。

 

一方、聖ヨゼフ学園中学校の先生たちは、IBを理解するにつれ、その認識が変わっていきました。IBの使命には、「多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する」と書かれています。「IBの理念とアトンメント(和解)は共通している」と吉野先生は思ったそうです。さらにIBの使命には、「人が持つ違いを理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあると認める」というものもあり、2020年度から男女共学になることを控えていた同校にとって、このIBの使命はそれを後押しする意味も持つことになりました。

 

このような経緯を経て、聖ヨゼフ学園中学校は、2020年度から男女共学、そしてIBのMYP候補校となりました。MYPでは、「概念理解」というものを重視しており、単元(MYPでは「ユニット」と呼ばれる)ごとに「重要概念」が定められます。例えば中1の国語や英語、音楽、中2の社会などのユニットで繰り返し「アイデンティティー」という重要概念が設定されます。国語では「自分が影響を受けた作品」から「自分自身とはどのような人間なのか」について考察。英語では、外国語による「自己紹介」を通して自分のアイデンティティーを再認識し、音楽では、「校歌」の歌詞の意味の考察や歌唱を通して「学校」というもののアイデンティティーについて考えます。また中2の社会・歴史分野においては、「武家社会」を「武士のアイデンティティー」という面から探究します。こうした学びを通して生徒は、「アイデンティティー」という概念について、多角的かつ教科横断的に理解することが可能となります。「点」として学んだ知識やスキル、考え方が「線」や「面」となり、最終的には立体的な「像」を結び、真に「活かせる」知識となるのです。

 

MYPの導入により、生徒たちは社会的な課題や地球規模の問題についても深く学び、それらを解決するための思考力や問題解決能力を身につける機会を得ています。これらの能力は、大学進学や社会に出て活躍するために、さらには日本社会や国際社会に貢献し救いとなるために欠かせないものとなるでしょう。

 

IBプログラムによる国語の授業風景、テーマから探求、分析、発表を行う

吉野英男先生と同じくIB推進部の小林直貴先生は、MYPを導入した聖ヨゼフ学園中学校が、カトリックの精神に基づく全人教育を行いつつ、生徒たちの国際的な視野を育成するという新たなチャレンジを始めたことを語りました。「私たちは、学校として、生徒たちに様々な視点から物事を見る機会を提供し、多様な文化や価値観を理解することで、彼らが自分自身を成長させる力を手に入れることを支援していきます」(小林先生)

 

多様性とは一人ひとりの個性や才能を認め合い、大切にすること。生徒同士もお互いを認め合って親密ですが、「顔と名前が一致しない生徒はいません」(吉野先生・小林先生)というくらい先生と生徒の関係性も親密です。

 

聖ヨゼフ学園中学校の未来は、70年間の歩みの中で学園が実践してきた学びとIBプログラムが絡み合って織りなされる、新たな教育の延長線上に、大きく拓けていくことになるでしょう。この学校が目指すところは、多様なバックグラウンドを持つ生徒たちが、少人数の環境の中で互いにみつめ合い、みとめ合い、そして尊重し合う、共に学び、生き、歩んでいく共同体の創出であり、その実現に向けて、MYPの導入は大きな一歩となることは間違いありません。これからも聖ヨゼフ学園中学校の挑戦から目が離せません。

 


※上記はNettyLandかわら版の抜粋です。全容はこちらをご覧ください。

 

聖ヨゼフ学園中学校

[学校HP]https://www.st-joseph.ac.jp/high/
〒230-0016 神奈川県横浜市鶴見区東寺尾北台11-1 
Tel.045-581-8808
最寄駅/ JR京浜東北線 鶴見線「鶴見駅」徒歩15分。「鶴見駅」、JRなど「菊名駅」 「新横浜駅」、東急東横線「綱島駅」から臨港バス「二本木」徒歩3分。 市営バス「東寺尾陸橋下」徒歩3分ほか。

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